【上京一年生】〜北海道帯広市出身 なぎさんの上京物語〜
「夢を叶えたい」「田舎にはいたくない」「ここでしかできないことがある」地方出身者が上京してくる理由はさまざま。
このコーナーでは、上京してまだ1年以内の女性たち、それぞれの上京物語をお伺いします。
がんばっている人、くじけそうな人、都会でそれぞれの道を進む彼女たちが見ている未来とは。
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今回お話を聞くのは、金融機関で働きながら音楽レーベルのスタッフとしても働く北海道出身のなぎさん24歳。
−−上京してどのくらい経ちますか?
去年の5月に出てきたので約9ヶ月ほど経ちました。
−−上京するきっかけは?
漠然と「東京に行ってみたい」という憧れを抱いていました。でも、まずは短大を卒業したら3年間そのまま働いてみて、それでも気持ちが変わっていなかったら上京しよう。と決めていたんです。
実際に3年経ってみたら「やっぱり東京に行きたい! もういいよね?」っていうくらい、東京への憧れや好奇心はおさまっていなくて……(笑)その瞬間に上京に対する迷いは何一つなくなりました。
−−そのときのまわりの反応は?
両親には全く反対されませんでしたね。普通なら、安くない学費を払って進学させた娘が、安定した職を辞めて仕事も決まらないまま「東京に行く!」だなんて言い出したら「どういうこと!?」ってなると思うんですけど。だけどわたしの両親は「あんたなら出来るんだろうから、頑張りなさい!」って送り出してくれました。
どうせ止めても聞かないだろうし、ってどこかで諦めていたのかもしれないですけど。(笑)
でも、もしそのとき両親に引き止められていたらわたしは上京していなかったかもしれない。こうしていま東京にいられるのは、両親の理解と支えがあるおかげですね。
−−なにをしたくて東京に?
いまは、金融機関で仕事をしながら音楽レーベルの仕事も手伝っているんですけど……元々はとあるバンドの追っかけをしていたんですよ。北海道からわざわざ東京や神戸のライブを見に行くくらいの。北海道からの追っかけファンは珍しかったみたいでバンドメンバーもわたしの存在を覚えてくれていて……そのバンドのヴォーカルが、いまお手伝いさせてもらってるインディーズレーベルの代表なんです。
東京に出てくるなら、なんでもいいから音楽関係の仕事がしたいとは思っていたものの、まさか自分が憧れていた人の下で働けることになるなんて想像していなかったですね。東京に出てきたらライブに行きやすくなるなーくらいにしか思っていなかったので、自分でもびっくりです。
北海道にいた時よりも地元愛みたいなものは強くなっている
−−実際に上京してみてどうですか?
東京は本当に魅力的な街ですね。そのおかげでびっくりするくらい充実した毎日を送れています。上京してきた初日以外では寂しさを感じたことがないですし、良い意味で地元への恋しさみたいなものもないですね。でも、それが自分にとって一番の理想形でもあるんです。
だって、せっかく上京してきたのに寂しい、帰りたいだなんて思っていたら何のために出てきたんだろう、って話だし。元の職場の人たちや友人、家族などたくさんの人たちに送り出してもらったのに、わたしが東京で充実した生活を送れていなければ顔向けができないじゃないですか。
まだまだ、みんなに恩を返していけるような立場じゃないけど、こうしてわたしが自信を持って毎日充実した生活を送っていることも一つの恩返しにはなるのかな、って。
−−いまの自分と故郷との距離感はどうですか?
そうですね。東京に出てくる前は札幌に住んでいて、その時と比べると物理的な距離は遠くなったんですけど、より強く地元を意識するようになりました。気持ちの中では勝手に「レペゼン帯広」って思っています(笑)職場など周囲の人はみんな都会の人たちなので、その中で自分は北海道の代表だ! と思うようにしていて。
たまに訛りを指摘されたりとかするんですけど……田舎育ちをただのコンプレックスに思うのではなくて、田舎育ちだからこそわかる感覚とか、みんなには無いような視点だったりとか。それはわたしにとっての武器になると思っています。みんなに「わたしは北海道出身なんだぞいいだろー!」って自慢して歩きたいくらいですね(笑)北海道にいた時よりも地元愛みたいなものは強くなっていると思います。
−−自分と故郷とをつないでくれているものはありますか?
わたしが北海道から持ってきたものってこれくらいしかなくて……同じ地元帯広出身のKONCOSっていう二人組アーティストのアルバムと、うちのおじいちゃんが手作りした木製の犬ですね。(笑)
思い出の品を持ってくるのって、きっと精神的に参った時にすがりたいからなんですよ。だけど、わたしにはそれは必要ないな、って。思い出は心の中にあるんだから、それだけで充分だと思ったんです。
木製の犬のオブジェは、実家で飼っている犬がモチーフになっています。うちのおじいちゃん、昔から木工が趣味で木馬とかおままごとのキッチンなんかも作ってくれてたんですけど。わたしがうちの犬でも作れそうだねーなんて話していたら、次の日には出来ていました(笑)
このアルバムは、収録曲のほとんどが帯広を題材にしていて、このCD=帯広なんですよ。帯広にいると聴きたくなって、むしろ帯広にいるときはこれしか聴かないくらいの。……なので、上京してからはまだ一度も聴いていません。(笑)
すみません、このくらいしかなくて……。
−−いやいや、素晴らしいですよ。おじいさまがわんちゃん作ってくれるなんて普通ないですもん。
あ、いま思い出した! おじいちゃんが作ってくれた箸置きも使ってます。
自分次第でなんだって出来てしまう
−−いま一番楽しいときってどんなときですか?
やっぱりライブですかね。ただ、いままでは“観客”として見ていたものをいまは“運営者側”として見ているので「楽しい」の意味合いは変わってきたと思います。不思議なことに、リハーサルから演奏を聴いていると、同じ楽器で同じように演奏しても、やっぱりお客さんが入った本番になると音が全然違うんですよ。そういう気づきも新しい楽しみの一つです。
今まではアーティストの音楽をただ受け取るだけだったのに、今では一緒に発信する側に立っている。夢見る少女からどんどんプロにならなきゃな、という自覚も生まれました。
−−では、5年後の自分はなにをしてたいですか?
そうですねー。具体的に「こうなっていたい!」というのはないんですけど、とにかく充実していたいですね。いまの自分は、少し前の自分が憧れていた世界にいる訳で、自分次第でなんだって出来てしまうことを知ってるんですよ。ただ「やりたいな」って思ってるだけで行動しなければ当然なにも変わらないけど、一つでもなにかを「する」と、状況ってみるみる変わっていくのを身をもって体験したので。本当にやったもん勝ちだよなー、って思ってます。だからこそ、5年後も10年後も、その時その時で自分がやりたいと思うことをきちんと実現できていればきっと幸せなんだろうな、と思いますね。
[ライター/木村衣里 カメラ/長橋諒]
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